なんとなく、つらつらと。尻切れトンポ話。。。

「自分の好きなことを好きなようにしたらいいんだよ」
幼いころ、母さんは私を膝の上に抱きながら良くこう
言っていた。
白いイムの形をしたソファー。
母さんはそれがお気に入りで「疲れたわぁ」と言いつつも
にこにこしながら、そこに腰掛けていた。
「ママは好きなことしてきた?」
私がそう聞くと、母さんは少し遠くを見ながら
「ママは好きなことがわからなかったからねぇ」
と寂しく呟いていた。
子どもながらにも、そう呟く顔がとても寂しく見え、
「ママ大好き」
そう言ってはぎゅっと母さんに抱きついていた。
そんな母さんが魂になる日が近づいてきた。
ー老年。
いつかは皆がたどり着く、人生の終着。
しかし、人はその日が来ることを忘れているかのように
普段通りに、仕事や武術を、日々の生活を繰り返す。
そして突然魂に変わる。
カン。朝を告げる鐘が鳴る。
催事場で迎えた、母さんの誕生日。
私の目の前で母さんが丸い珠に変わった。
うっすらと光り、点滅を繰り返す珠。
今まで母さんの形をしていたそれは、私にこう言う。
「先に行くけど、元気でね」
珠は少し寂しげに揺れた。
それは手を伸ばし私を抱きしめようとした、様に見えた。
しかし珠は揺れるだけ。
「お母さん、後は私に任せてね」
少し強がって私は言う。
声が震えているのを自分で感じたが、母さんの珠は
また軽く揺れただけで返事をしなかった。
「巫女様、儀式をお願いします」
珠は自らの昇天を申請する。
巫女は深くうなずき、儀式の流れを説明する。
私は少し離れた場所でそれを眺めている。
窓の外からは、子どもたちの楽しそうな声が
聞こえていた。
「最後のお別れを」
式は無機質に進んでいった。
・・・私は涙でかすむ目をこすり、
「元気でね」
昇華する人に元気でねもなにもないだろ、と心の中
で自分に呟く。
母さんの珠は最後に、軽く揺れた。
ああ、笑ってくれた、そう思った。
そして珠は天へと昇っていった。
見上げていると涙もこぼれない。
私はしばらく天井を眺めていた。
母さんどじだから、ぶつかったんじゃないかな・・・・
最後の最後にこんなことを思う自分が可笑しかった。
ふと、珠が居た場所を見ると、欠片が落ちていた。
蒼くてきれいな欠片。
母さんの思い出が詰まった欠片。
この地に生誕して、生活していた記憶。
私や兄弟たちを育ててくれた記憶。
晩年村の子どもたちと過ごした記憶。
母さんの記憶。
欠片を大事に布で包み、私は催事場を出た。
催事場の重いドアを開けると、光がさしこむ。
包んだばかりの布を外し、母さんの欠片を光にかざした。
光を反射し、また吸収し、きらきらと光った。
ああ、母さんも好きなことして生きていたんだね。
そう思うと、嬉しくなった。
母さんの欠片の光が眩しいから。
何もできなかった人の光じゃないから。
欠片に口付けして、また布に包んだ。
さぁ、帰ろう。
新しい今日がまた、始まったから。